学習指導要領が改訂されるたび、最も翻弄されているのは理科かもしれません。文科省の方針は玉虫色なため、その時代ごとに変化しすぎで統一感がないように思えます。今回の改定は、一つのガイドラインとなるのでしょうか?
(1)週当たりの指導時間数の変化
- 1992年度指導要領: 中1…3時間、中2…3時間、中3…4時間
- 2002年度指導要領: 中1…3時間、中2…3時間、中3…2.3時間
- 2011年度指導要領: 中1…3時間、中2…4時間、中3…4時間
過去20年分の経緯をみると、今回の改定における理科の指導時間数が1番多くなっています。3年間トータルの指導時間数も数学と同じになりました。理科軽視の傾向が顕著だった2002年学習指導要領(中3の少なさは論外!)からみると、約14%の時間増であるといえます。
(2)学年別指導単元の問題点
①指導領域の順序
92年指導要領までは、全学年とも第1分野が「化学領域→物理領域」、第2分野が「生物領域→地学領域」の順で学習していました。しかし、2002年度改定において、第1分野が「物理領域→化学領域」とされ、教育現場で混乱が生じていました。
その理由は、数学において「数と式」を学ぶ時期に物理領域を学習するため、方程式の知識が乏しい段階(特に中1)での計算問題を指導しにくかったためです。
今回の改定においては、領域の学習順序は学年内の4領域の指導順に柔軟性を持たせています。対応は教科書会社任せになりますが、第1分野を「化学領域→物理領域」と編集する会社もあることでしょう。
②地学領域の単元配列
残念ながら、2002年度改定によって生じた中1大地と中3天体の指導順変更(92年度学習指導要領までは、中1が天体・中3が大地)は解消されませんでした。現在の配列を維持した現状では次の問題点が生じます。
- 小6理科「土地のつくりと変化」と中1「大地の成り立ちと変化」の単元類似性が高く、連続学年ゆえ発展的に扱うことが難しい。
- 地学領域の割に理解事項が多い「天体」の指導ブランクが3年間生じるため、小学内容との継続性が断たれる。
- 中3数学で学習する三平方の定理をからめた地震における震源距離測定を指導できない。
地学領域は、高校理科「地学」の選択率の低さから、中学までの指導内容が知識として定着するケースが大きい領域です。しかし、この学習順では成人した時の地学領域の知識の希薄化を招きやすくなります。
文科省は、次回の改定においてこのねじれ現象を解消すべきでないでしょうか。
(3)第1分野各単元における配列変更と追加
①化学領域
- 中1…水溶液・気体・状態変化の大枠は変わらず。ただし、溶解度曲線・質量パーセント濃度などの前回削除事項が復活。
- 中2…中3より酸化と還元が降りてきて、92年度指導要領とほぼ同じ「化学変化」全般を学習。それに伴い元素の周期表も復活。化学式・化学反応式に関しては「簡単なものを扱う」と記載されているが、指導限界は教科書検定をみるまで予想しがたい。
- 中3…「物質とイオン」が単元として復活(詳細は後述)。
②物理領域
- 中1…光と音は大差なし。力と圧力においては、重さと質量・フックの法則・水圧・浮力が復活。
- 中2…電力・電力量・発熱量・電流と電子が復活。これに伴い公式計算の演習量が増加する。
- 中3…力の合成と分解・仕事と仕事率・力学的エネルギーが復活。中1内容であった熱量が編入される。中2同様に公式計算が増加。
③物質とイオンの取り扱い
基本的に、1992年度指導内容に準じた形での復活となります。「電解質と非電解質→原子の成り立ちとイオン→化学変化と電流→酸とアルカリ→中和と塩」の配列順も変更はありません。
特筆すべきは、高校理科「化学」へのつなぎ単元であることが若干強化されたことです。具体的に申し上げると次の点です。
●原子の成り立ち:80、92年度学習指導要領では「原子核と電子」のみにとどめていた記載事項を「原子核は陽子と中性子から構成されること」までと変更。
●イオン記号:92年度学習指導要領でみられた1価単原子イオン(含水酸化物イオン)のみとした制限が記載されていない。よって、2価以上の原子団イオンも触れるとみられる。
●電池:金属イオンのイオン化傾向に関して記載なし。触れる方が自然であろう。また、ボルタの電池だけでなく日常生活で活用されるものも触れることとなっている。鉛蓄電池の扱いは不明。
●中和:pHに触れることが明記される。また、難溶性の塩にも触れるため、必然的に2価金属イオンも学習することになる。
以上のことから、過去20年間で最も内容が濃くなるといってよいでしょう。この点は大いに評価できます。ただ、塩化銅の電気分解→原子の成り立ちとイオンの流れで指導していった場合、遷移元素の銅イオンをどう取り扱うのかは疑問です(原子の構造を説明しにくい)。意外に、塩化銅ではなく塩酸に置き換わる可能性もあります。
(第2分野と総括は後編にて)