公立高校入試を終了し、各塾は今頃入試の自己採点結果を集計して、各生徒の合否予想を算出しています。合格発表直後にチラシ広告を出すには、この時点で、合格決定でないのに合格体験記を書いてもらわないと間に合わなくなる事情もあります。子供たちの文章にはじけるような喜びが乏しいのは、そのためでしょうか?
前回お話した高校の進学実績広告の続きです。札幌圏ではありませんが、過去に実際にあった摩訶不思議な事件を紹介しましょう。
ある地域の進学校においてR会の実績とHZ会の実績をトータルすると、その高校の定員をオーバーする人数になったそうです。
なぜか? 重複カウントの生徒がいるからです。たとえば、A塾の塾継続生が1回でもB塾のテストを受けるとWカウントですし、B塾の中3春期講習を受講した生徒が4月からA塾の塾継続生となれば、これもWカウントです。前回の内容を読んでいただければ、この例のようなWカウントは「?」と思いますね。
当時のR会の広告チラシには、“当塾は短期のテスト対策ゼミやテストのみの生徒を実績として含めません”と他塾を牽制した文言が強調して掲載されていました。わざわざそんな当たり前のことを載せたということは、R会グループは、おそらくライバル塾HZ会に対して怒ったのでしょう。
ライバル塾との実績競争の中で、その反撃は開始されました。1つは別項目にも記載した「HZ会塾費用偏差値事件」の雑誌へのリークです(知人曰く、会社代表自らがリーク宣言したとのこと)。
しかし、これは公正取引委員会からおとがめなしの裁定が出されてしまいました(昨年あったマクドナルドの地域価格認定の例からして当然)。次に、自塾の高校での占有率&NO.1戦略でのアピールで、差別化を図り始めたのです。こんな広告を見たことないですか?
この、円グラフを多用したインパクトのある広告はなかなか迫力がありますね。R会は、HZ会よりも実績をはるかに上回った地区から、この円グラフを多用したチラシ広告を開始しました。
HZ会は追従したくても、実績がなかったために合格実績人数のみの広告をするしかなかったのでしょう。そのうち、大きく実績に水をあけられるようになると、A高校+B高校で何名とか、かなり苦しい数字遊びを始めます。それでもだめなら、近年のように過去累計で何千人トータルで合格者輩出!! と数字遊びに輪をかけ始めます。
はたで見ていても見苦しい限りです。そうすると、内部でも反撃策の検討となり、R会NO.1攻勢に歯止めをかける作戦をHZ会は全社的に開始したのではないでしょうか。
2000年代になると、HZ会は氏名入り広告を取りやめます。個人情報に関して社会的に敏感になった風潮が広まったことが主な原因でしょうが、他にも理由があったのかもしれません。
R会は、「ライバル塾がやるならうちも…」と考えたかどうかはわかりませんが、算定基準をゆるめてしまいます。何と愚かな行為なのでしょうか、R会の脇の甘さを象徴しています。その結果、次のような事件へと結びつくのです。
道内大手の学習塾「R会グループ」を運営する「R」(本社・帯広市)が、広告に不当な表示があった疑いがあるとして、公正取引委員会から、景品表示法違反のおそれがあると警告を受けていたことが、22日わかった。
Rは、1977年の創業。関連会社とグループを作り、「R会」という名称で、道内11都市で約150学習塾を運営し、約1万7000人の生徒がいる。
Rによると、警告は、昨年の新聞や折り込みチラシに出した広告に関してで、〈1〉4月の「道内公立高校の合格実績ナンバーワン」とした広告文について、2番目の進学塾と同時期の合格者数を比較していない、〈2〉6月の広告に出した合格者数に、中学1年生や2年生のときに在籍した生徒も含めた、の2点を指摘された。同業の学習塾運営会社が、Rの広告に不当な表示があるとして、訴えていた。
出典: 『読売新聞北海道版』2003年7月23日付
なにが問題で警告を受けていたかというと、「××高校占有率NO.1!」と広告に記載した時期には、他塾との数値比較がなされていないことでした。かつては占有率でしのぎを削って争っていたHZ会にとっては、格好の攻撃材料だったのです。「同業の学習塾運営会社」というのは、どう考えてもHZ会かと思われますしね。
もちろん、R会が黙っているわけはないでしょう。反撃策を検討して、逆告発の道を選ぶのは既定路線でしょう。HZ会が広告上、過大な表現をしている部分を攻めていきますよね。
公正取引委員会は17日までに、HZ会などを展開する大手進学塾、SG会(札幌)が、チラシに昨年春の高校合格者の実績を全国一などと載せたのは景品表示法違反(優良誤認)の恐れがあるとして、文書で警告した。
公取委の調査によると、同社は昨年6月から配布を始めたチラシやダイレクトメールで、同年春の合格実績を「高校合格者全国No.1」「公立高全道ナンバーワン」とPRしてきた。だが、同社が「1万8386人」と掲げる全国一については、各塾の算出方法の基準が異なるため、「適正な比較ではない」(公取委)と結論付けた。道内公立高の合格実績については、同社以上に合格者が多い塾が存在し、「全道一とは認められなかった」(同)。
公取委は、同社の表示が消費者に、実際や同業者よりも著しく良いと誤認される恐れがあるとして、今後同様の表示をしないよう、14日に警告した。これに対し、SG会は「担当者不在で分からない」と話している。
出典: 『北海道新聞』2004年1月18日付
私が、疑問を感じるのは、R会の警告からわずか半年足らずで公正取引委員会が道内塾に再度警告をしたところです。これには何らかの圧力があったと考えざるを得ません。おそらく、これがR会の反撃だったのではないでしょうか?
ちなみに、2004年頃にR会グループ取締役副社長が退職しています。真偽は不明ですが、「事態収拾後に責任を取らされたのでは?」と知人は話していました。まあ、彼自身がその役員をかなり嫌っていたようなので、邪推しすぎのような気もしますが……。
正直に申し上げて、1990年代から現在における、大手塾同士の占有率合戦には、閉口するばかりです。それは単に、醜いばかりの私立有名校・地域公立進学校の合格者数争いのことばかりではなく、ここ20年間余りでの、各地域の教育現場にもたらした影響が大きいからなのです。