なぜ、塾の高校生指導は英数が中心になるのでしょうか。予備校程の充実は無理なのでしょうか。その答えは、開学時の発想の違いから導けます。
10年ほど前の予備校バブルの時代までは、予備校御三家を中心とする学校法人予備校のターゲットはほぼ既卒者のみに絞られていました。当時の受験生気質を象徴する言葉として「一浪=ひとなみ」というのがあります。浪人は当たり前という世相を反映してか、予備校の人気講師の自給は数万~数十万円ともてはやされていました。
繰り返しますが、法人予備校は各種学校・専門学校の一種ですから、必要なすべての科目のスタッフをそろえるのは必然です。その時代までにシステム構築を終えた予備校にとって、現役高校生部門を立ち上げても同一スタッフでの運営が可能だったのです。
既卒生は昼間、現役生は夕方から夜という時間帯別の住み分けも有利に働きました。勤務状況はともかくとして、朝から夜まで単一講師で多くのコース設定が可能であったことが予備校現役部門の充実に寄与しています。
一方の塾はというと、(21)のR会グループ会長の言葉にあるように8割以上のウエートが中学生で始まっています。1~3章を継続して読んでいる皆さんならピンとくるでしょう、英数の授業時間数は理社国の2倍以上であることを。つまり、所属する講師比率において、英数担当者が圧倒的に多いということなのです。
HZ会のようにアルバイト講師比率が高い塾では、拠点とする本部教室に理社国社員講師が1名しかいないケースが多々あります。高等部に割ける人員があるはずがありません。R会にしても社員比率が増えたのは、高校部門を自社開発することをあきらめた後のことです。特に、各塾で指導時間が短く、絶対的講師数が不足している国語はいかに需要があってもコースを設定できないのです。
元々、高等学校の学習内容を指導する予備校が現役高校生を指導しても、講師には無理な予習は必要ありません。しかし、中学生までの指導しかしていなかった塾講師にとって、高校生内容までの指導水準への引き上げはかなりの労力になります。
小学生のお子さんの勉強を指導できる親御さんは多いと思いますが、中学・高校と上級学校へ行くほど子供に勉強を教えられなくなるケースは当たり前にありますよね。知識レベルだけで考えれば、上から下に降りるのは全くの無理はなく、その逆は非常に大変なのです。したがって、内部での育成は塾にとって困難が多い話です。
指導能力のある人材を採用して高等部指導を充実させる方法もあります。しかし、高校レベルの指導能力を持った講師を確保すること自体、その能力を持っている人材の絶対数が不足します。小中学部全社員講師であるS英でさえ、高等部には非常勤講師(アルバイトや契約社員など)が存在しているのです。
それでも、英数に関しては人材確保は可能性があります。内部で研修して、高等部指導に対応させるのが他教科よりも容易だからです。国語に関しても、講師絶対数が満たされていれば内部育成は可能です。
理社を指導する講師を育成できないのは、その専門分野色のつよい教科構造に原因があります。どちらの教科も中学校までは「浅く広い知識」が指導者に求められます。しかし、高校生の理社はご存知のように、理科で4科目、社会で6科目と内容の異なる分野ごとの指導となります。すべての科目のゼネラリストの育成は無理です。
1科目のエキスパートがいても、生徒のニーズと合致しない可能性も出てきます。極端な例ですが、高校地学の指導可能な理科講師がいても、生徒需要はほぼ皆無ですから無意味な存在になってしまいます。さらに、理社を指導する講師は、専門外の科目に弱点をかかえるケースが多いので中学生をだませても、高校生には通用しないというのが悲しい現状です。